本当の自分に向き合える時間
大学生の頃に教則本やDVDなどを通じてヨガを体験したというエナさんは、自己流でありながらもその心地よさを実感していた。やがて社会に出て心と体の不一致を感じるようになった時、改めてヨガと出合いなおす。
「クラスを受けてみたときに、わたしバラバラだったなって気づいたんです。その当時は若かったこともあるし仕事が激務だったのでいつも疲れていた。仕事をしているときの自分とプライベートの自分、何が本当の自分なのか悩んでいた。それをいま言葉にできるならば、本質といわれるもの、自分の芯である部分をヨガの時間に感じてすごく気持ちがよかった。くつろげたっていうのかな。
やがて仕事を辞めることになった時に、もう少しヨガを深めてみたいと思った。そうしてティーチャートレーニングを受けたのがヨガの人生、生き方の始まりだったのかなって思います」
一方、義浩さんも料理のかたわらでヨガに取り組んできた。
「ヨガに最初に出合ったのは学生時代のバックパッキングでバリ島に滞在していた時。近くにスタジオがあるから行ってみるかって。その時の経験がすごく印象に残っていた。それで軽井沢のレストラン〈エンボカ〉で働いている時に友人の勧めでアシュタンガヨガをはじめました。
やがて京都に仕事で移ってきて、初めて自分のお店を任されて友達もいないしで悩みも多い時期だったんですけど、ヨガをしている時間だけがちょっとそこから離れて真っ白になれた。アシュタンガをめちゃめちゃ深めているというわけではないですけど、何かそのスタイルは好きだったんですね」
ふたりを結びつけたのもヨガだった。エナさんが、義浩さんのお店にお客として出向いた時の会話がきっかけだった。
「同じスタジオで練習してるんですねって話になって。毎週火曜日の早朝練習で顔を合わせるようになっていきました」
常に調和を選ぶ
ヨガを始めた頃はアーサナ(ポーズ)=ヨガという感覚だったというエナさんは、ティーチャートレーニングでヨガ哲学と出合い、ヨガだけに集中する海外での生活も経て、ヨガがアーサナだけでなく生き方全てに及ぶものだということに気づいたという。
「端的に言うと、生活の中でも常に調和を選ぶんですよ。わたし達は生きている中で、朝起きてから寝るまでずっと選択してますよね、AかBかみたいに。道だって右にいくか左にいくかとか、子どもにかける言葉ひとつとってもどう伝えるかとたくさん選択する機会があると思うんですけど、常にその中で調和を選ぶ、不調和を選ばないっていうのを一日中実践し続ける。
小さな選択ひとつひとつを調和を意識して行うことで、生活全体が良い方向に向かうようになりましたね」
一方でmonk=修行僧のようにあくまで料理を本分とする義浩さんは、ヨガを通じて得た集中力が仕事に活かされていると感じているそう。
「特に若い頃に考えたのは技術的なこと。少しでも料理がうまくなりたいって毎日思って暮らしていた中で、包丁を1ミリ動かそうと思ったときに、その1ミリを動かせるか、一転食材がゴミになってしまうかというコントロールも、ヨガをやってくことですごく変わっていくような気がしていた。
そしてやっぱりね、気持ちの面での集中力。お店でいろんなことが起こってる中で、集中力を良い状態に保ち、ゾーンに入れるかっていう部分でもすごく良いトレーニングだなって。トレーニングというとヨガに対して下心があるけど、本当にそれが自分にとってもっといい仕事をするための良いツールだなって思って練習をしてました。仕事から離れるための時間でもあったんですけど、仕事に直結する必要なもの大事なものでもありましたね」
人生のハンドルを握ったことはない
やがてヨガを通して出会ったふたりが、〈monk〉、〈studio monk〉という理想の場所を持つに至るのだが、実はそこまでの道のりは予め計画していたというようなものではなかった。
エナさんは働いていたスタジオのマネージャーという役割をいったん手放し、フリーランスのヨガインストラクターとして活動しようと考えていた。インドへ行く計画もあった。一方、義浩さんは任されていたお店〈エンボカ京都〉を卒業したところだった。
「そのタイミングでそろそろどこか海外に行こうかなと思っていたら、“赤ちゃんできたんだけどっ”て。じゃあ留まってお店をやるかって」
生まれ育った茨城や働いたことのある長野も候補にあがったが、やはりお店を開くなら京都だろうということになり物件を探す日々が始まる。
「サイズ感とか場所の感じとかばっちり理想がありました。京都の外れで緑もあればいいなって、その感じはちょっとずつ固まってきていて。妊娠8ヶ月くらいから物件探しをはじめて、無職ですし収入もなくて暗黒期だったんですけど(笑)。娘も生まれてきた頃にようやく今の〈monk〉の物件が見つかりました」
「本当に自然と流れ流されて」と笑うエナさんに、「(人生の)ハンドルなんて握ったことないよ」と義浩さんが返す。子どもを授かったことをきっかけに生まれたレストランとヨガスタジオが生まれてから5年、ふたりが根を張ったこの場所は地元で愛されるだけでなく遠方からも多くの人が訪れる磁力を帯びるまでになった。
みんなが自分自身にくつろげる場に
「いま自分の仕事としてやりたいこと、料理のあり方なり、表現の方法、お店として全体の表現の方法をそれなりに固めることはこの最初の5年間でできた。それをどんどんね、もっと5年、10年と深めていくことで、どんな世界が見えるんだろうっていうことが楽しみでもある。もっとどんだけ深い井戸を掘れるか、みたいなところはあります」と義浩さんは、手応えを感じているこの店と料理を成熟させていくイメージができている。
一方、エナさんはヨガを通してくつろぎを提供できる喜びを感じている。
「スタジオのキーワードになっているのが、お話しした〈調和=ハーモニー〉と〈明かりを灯す=エンライトメント〉、あと〈喜び=ジョイ〉なんです。
スタジオに来られた方がヨガに限らずこの場を通して、私が最初にヨガに出合った時のような心と体とスピリット=本当の自分、を統合していくような時間を自然に感じられたら。その人が本当に自分自身にくつろげて、生活に戻っていったときに周りの方にもそうした調和的な感覚だったり深い感動だったりというのが伝わっていく、そんなきっかけの場所になればいいなと思っています」
HERENESS YOGA COLLECTION
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