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CALM TALK 05 自然と向き合う気持ちいい瞬間を、直感的に伝えたい | 中瀬萌(アーティスト)

アーティスト中瀬萌は、生まれ育った相模原の自然の中で、作品と空間を紡いでいる

  • PhotographMomoka Omote
  • TextHERENESS


相模原市の西北部に位置する藤野エリアは、四方を山に囲まれ、相模湖をはじめとした水と自然が豊かな土地だ。それと同時にアートの町としても知られている。そもそもは第二次世界大戦の折りに、藤田嗣治をはじめとした芸術家たちが疎開してきたことがきっかけだったという。都心から至近でありながら自然に恵まれたこのエリアが、芸術家たちを惹きつけたことは容易に想像できる。

アーティストの中瀬萌さんは、両親が芸術大学出身でここにアトリエと自宅を構えていたことから、この土地で生まれ育った。成長して都心での生活も経験したが、再びここに帰ってきた。

自然のエネルギーを感じる画法

「最初は点描画みたいなものをずっと描いていて、そこから色彩へと移っていきました。始めは東京で、ボールペンで白黒の点描画を描いていた。

こっち(藤野)に戻ってきてから、意識的にこういう自然の景色を見ていたりして、“色使おう!”というより、自然に手に取っていた。それは、見たものを残しておきたい、記憶を留めたいからというのが強いですね」

中瀬さんの主な画法の土台は、エンカウスティークという蜜蝋を溶融して色素と混ぜて描くという古代から伝わるもの。そこから現在は、独自の方法で新たに密猟を多様な方法で作品に落とし込んでいる。

「蜜蝋の塊って熱で溶けない限りは、何千年と安定している素材。だからミイラに使われていたり、アテネとかギリシャ時代から画材として使われているんですよ。

その歴史がすごく好きだし、自然のエネルギーがめちゃくちゃ強い感じがする。蜜蜂が花粉を集めて、その分泌物から生まれた素材だから」



自然との関係を作る機会を提供したい

藤野に帰ってきてから制作活動も数年が経ち、中瀬さんはいま新しい拠点作りを始めている。

山梨県と接する相模原の西端、佐野川という山深いエリアにその建物はある。すぐ横には沢が流れており、近くにはその名も〈井戸〉という地区があって、昔から水が豊かな場所だということがわかる。

「ここの地域の人はみんな川の水を引っ張って生活しています。すぐそこに登山口があって、陣馬山、高尾山と山が連なっているんですよ。

トレイルランのコースだったりするので山をハイキングする時の休憩場所でもいいし、上にある福祉施設と一緒にワークショップをしたり、ミュージシャンを呼んだり、アートに関わることでも、そうでなくてもこの場所の幅が広げられればいいなと考えています」


こうした場所で育ってきたから、中瀬さんにとって自然は当たり前の存在だ。けれど、都心暮らしを経験して、街に住む人たちにとっては自然に向かうハードルがあることにも気づいた。

自然の中で何をしたらいいのか、山に登るにしても何を着て何を履いたらいいのか、これまで自然との接点を持つ機会がなかった人にとってはちょっとしたことでも障害になる。そうした人たちに自然との関係を作る機会を提供したいという。

「隠してたんですけど、全部真っ黒の作品だったり、トゲトゲした作品やギザギザの真っ黒とかみたいな作品もあった。それが変化してきたのが、こっちに戻ってきて山に入るようになってから。自分で気づかなかったんですよ。作品って自分の身体みたいなモノだから、後になってようやく気づく。あ、ここに筋肉ついたみたいな変化と一緒で。だいぶ気持ちが穏やかになったんだなみたいな(笑)。

それは自分が喧騒から離れて、一度自分と向き合う製作の時間を持って、自分と対話して、気持ちいい瞬間があるから、そこを直感的に伝えたいっていうか、伝えたくて描いているかはわからないけど、そういう意味で描いている」

そんな変化を受け入れている中瀬さんからは、暖かいエネルギーのようなものが溢れている。それは周囲にも伝わっているようだ。

「このあいだ10年来くらいの友達が連絡くれて会ったんです。なんで連絡くれたの?って聞いたら、“なんか幸せそうだったから”って言われたんですよ。走っていたり、山に行っていたり、自然の中にいることを知っていたし、絶対その影響があるなって思って、今良いイオンを発してると思ったから吸いたいって(笑)。

なんだか言葉を素直にありがとうっていう感じで。自分が意識していないところで、心地いい時間を人にも与えられているのかなと思って。

こうした生活だったり、環境にいることを知ってもらった上で、何かを始める人がいるかもしれない。ただ、そのワンステップの手助けになればいいなって」

PEOPLE

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